「かんぽ生命」に関する不正問題がニュースになっています。最初は数千件の「不利益契約」の発覚で始まった問題が、今その1万倍近くになる全契約3000万件の見直しにまで発展してしまっています。
どうしてこうなってしまったのでしょうか。
最初の経緯は、2年前、新商品を販売した際に乗り換え契約が2倍に急増。苦情も複数寄せられていたようで、金融庁が事実関係の調査をするように命令。それから先々月6月24日、顧客の不利益になるような疑いがる事例が5800件あるとし、ニュースになりました。そして、その3日後には、その4倍である2万件以上不利益案件があったと発表しました。
7月31日には、「3000万件もの全契約を見直す」そして、「保険商品の営業を当面自粛する」と発表。
まさにわずかなミスが大きな傷口に広がっていく様子がわかる事例となってしまいました。どうしてこんな大きな問題に発展してしまったのか。最終的には、顧客に不利益を与えた可能性がある保険契約は約18万件あったことを認めました。
■最初はたった0.02%から始まった
かんぽ生命の過去5年間の全契約3000万件に対して、最初は5800件、約6000件だけの不正のように思えました。
その割合はたった「0.02%」です。
いかがでしょうか。
0.02%は、5000に対して1つの割合です。
あなたはデータ入力をそのまま行うときに、1万字の文字を打ち続け、0.02%もの文字の打ち間違いで済ますことができるでしょうか。多くの方にとっては難しいと思います。
タイピングテストは一度はやったことある方は多いでしょう。どんな正確に打てる人でも100字打てば1文字は打ち間違いが起こったりします。しかも早く打とうとすればするほど起こります。1%のミスでその程度です。
それよりもさらにずっと低いのが0.02%。その1/50にもなります。99.98%はうまくいっているのです。
しかし、なぜここまで大きな傷口になってしまったのか。
■一歩先の数字力
「ハインリッヒの法則」、ご存知でしょうか。
1件もの重大なミスが発覚したとき、その背景には30件ものミス、そして、300件もの軽微なミス(ヒヤっとした経験など)があるとされています。(※)もちろん、労働災害の発生確率においてこのような研究結果を発表しているので、もちろん、この割合は業界によって全く異なるでしょう。しかし、多くの人はピンとくるはずです。
交通事故重大な一件の背景には、多くの事故があり、それよりもずっと多くの「事故になりそうなひやっとした体験」があります。私自身も車に引かれたことはありませんが、自転車に乗ったまま車をひいてしまい(笑)、首を痛めて病院で検査を行ったことはありました。明らかな交通事故はなくても、「交通事故に分類されないような小さな交通事故」や「事故につながりそうな体験」は誰もしているはずです。
つまり、重大な1件が起こったとき、それはその1件だけの問題ではありません。つまり、たった「0.02%」の話にとどまることはありません。
です。その背景にはずっと多くの問題があり隠されていることを、この問題が発覚した時点で気づくことが大切なのです。
お仕事の中でも、日常の中でも、1件大きな問題があったとき、その問題だけであってほしいと誰もが願います。しかし、その背景にはほとんどの場合多くの問題が絡んでいるのです。
もし、このハインリッヒの法則がそのまま適用になるのであれば、0.02%の300倍、つまり、全体の6%もの案件が絡んでいるミスかもしれません。
現に、最初は約6000件だったミスがなんと30倍、18万件にまで膨らんでしまいました。まさにハインリッヒの法則がそのまま適用されていますね。ちょうど30倍です。
そのまま考えると、その10倍、180万件ものヒヤッとするような契約もきっとあるかもしれませんね。だからこその全件見直し。
保険という長期にわたって安心を提供する商品で、そして、日本郵政という誰もが信用していた会社だったからこそ、多くの方にショックを与え、その対応として会社側が選んだものです。これらの契約見直しによって多大なコストもかかり、少なくない解約が出てしまうことでしょう。
この「かんぽ生命」の事例を他人事ととらえず、「たった0.02%の問題」と言わずに、背景にどんな問題が潜んでいるのか、きちんと確認することを怠らないようにしていきたいものですね。
※ハインリッヒの法則は比率そのものについては本質的ではなく、大きな事故の背景にはたくさんの事故があるという示唆を与えているということが大切です。1929年の論文で書かれたものなので、当時の状況、時代背景も絡んでおり、後年新たな比(60:30:10:1)などが提唱されたりしているようです。法則にまつわる数字にこだわりすぎないようにしましょう。
■参考URL
・かんぽ生命 顧客本位の意識欠き、信頼回復の道険し(産経新聞)
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